『お金と生き方の学校』を読んだ
- 作者: 新田ヒカル
- 出版社/メーカー: サンガ
- 発売日: 2009/06/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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投資家・新田ヒカル氏による、「お金と生き方」をテーマにした対談集。対談相手は、苫米地英人氏、小飼弾氏、杏野はるな氏、木村佳子氏、小幡績氏、小池龍之介氏の6名。みな、「お金と生き方」について一家言持った人たちだ。
まず、最初に出てくるのが、苫米地英人氏。本書のプロフィールによれば、計算言語学者・認知心理学者。この人、プロフィールを見る限りでは、学術と実業、二足のわらじを上手に履いてきた人、というくらいの印象なのだが、対談内容から受けるイメージは、プロフィールとはだいぶ異なる。
彼を一言でいえば、「ペテン師」。それも、かなり典型的な。話の進め方がその傍証だ。
まず専門用語をまくし立て、知識があることをアピール。砕けた物言いで親近感を獲得しつつ、他では得られない裏情報(≒偽情報)も小出しにすることで、うぶな読者を信じ込ませる。
正直言って、苫米地氏の経済トークは話半分に聞いた方がいいと思う。ただ、投資はセックスより麻薬より気持ちいい、というくだりや、投資で得た金を投機目的で物理資源(不動産、鉱物資源、食料等)に回すな、という警告は面白い。
苫米地氏の本領は後段、メタ思考の部分だ。認識の抽象度が上がると、パターンを抽出できるようになり、自由に振る舞えるようになる。二次元人には三次元人の振る舞いは予測できないが、その逆は容易だ。
そして、「抽象的なゴール」を設定することで、人は自由になる。ゴールに重要なのは、抽象性の高さ。基準は、いまの自分のままでは絶対にできないこと。一見実現不可能なゴールを設定し、そこと現在の自分とのギャップを意識することで、現在の自分を変える原動力とする。
2人目は、小飼弾氏。ブロガーとしてよく知られた人物だろう。僕が本書を知ったのも、彼のブログがきっかけだ。
種銭が少ない内は自己投資が最も効率的。通帳を見て「カネが遊んでるな」と思ったときが投資を始めるタイミング。種銭は少なくとも100万円、トレードの時間対効果を考えると、1000万〜が目安。教育やエネルギー問題の話も取り混ぜた、いつものdankogai節も味わうことができる。
3人目は、アイドル・杏野はるな氏。彼女の場合、88年生れという若さもあって、自分の中のコンテンツはまだ貧弱。この対談でも、新田氏が持論を展開する部分や、新田氏に話を引き出される部分が多い。
彼女の話を読んでいて考えたのは、アナロジーと学びについて。杏野氏が専門といえるほど知っている分野は、レトロゲームだけ。しかし、レトロゲームを深く知ることによって、共通点の存在する投資についても、素早くエッセンスを吸収している。一つの分野を極めた人が、他分野の習得も速い、というのはこういうことだろう。
4人目は、投資家・木村佳子氏。この人の話は、論としては面白いんだけど、一点に集約されるような「芯」が取り出しづらい。「変化に対応しなければ生き抜くことはできない」といった感じだろうか。
投資アドバイザーの中には、「デイトレはギャンブル、長期投資が王道。根拠は第二次大戦後60年間の株価推移」という人がいる。それは過去についての語りとしては正しいが、明日も昨日までと同じ仕組みで世界が回るとは限らない。
5人目は、小幡績氏。実は、僕が本書の購入を決めたのは、彼が対談者リストに入ってたからだ。行動経済学者としても有名だが、ごく一部ではPerfumeの熱狂的なファンとしても知られる。のっちとかしゆかが立て続けにフライデーされた時の、彼のブログ記事を引用しよう。
株式市場とPerfume
ともに分岐点を迎えた。今や、あ〜ちゃんが世界の命運を握っている。
Perfumeとの絡みでの、日本文化の考察も面白い。カネをかけるアメリカンモデルは終焉し、カネの代わりにエネルギーを使うPerfumeモデルが台頭する、というのがその骨子だ。
経済についてのスタンスは、悲観論者。日経平均株価は5000円まで下がると予測していたし、不況は10〜25年続くと述べている。「このご時世、株なんてやらない方が、財産を守ることのできる確率は高い」という指摘はその通りだろう。2002〜07年までのような、上昇トレンドの下の相場と、現在の市況は全く別物。
また、経済学は未だ黎明期の学問で、その知見は間違っている(既に過去の常識となってしまった)部分も少なくないから、金融教育などやめた方がいい、という指摘も面白い。
小幡氏の章を読めただけでも、本書の価値はあったといえる。弾さんの話も面白かったが、ブログでたくさん読めるので、小幡さんに比べると「希少性」が低い。
6人目は、住職・小池龍之介氏。彼の対談は、「FX攻略.com」の再掲載ではなく、本書のために語り下ろされたもの。本書の出版社・サンガは仏教系の出版社なので、その絡みだろうか。
小池氏の仏教についての話はとても興味深い。我々はあらゆることから刺激を受け、快/不快を感じながら生きているが、小池氏によれば、刺激すなわち快/不快は、それ自体ストレス(仏教用語でいえば、「苦」)であるという。
快/不快システムはヒトという生物「種」が繁栄するために作り出されたプログラムであって、個々人を幸福にするものではない。仏教では、幸福(すなわち、心の安楽)のために、脳の刺激に対する反応をハックする。
外界の刺激に対する反応をニュートラルに近づけることで、心が揺れ動かない状態を作る。あらゆることに動じなくなれば、それが「悟り」だ。
途中まで読んで、僕は、これは危険思想ではないか、と考えた。種が生きのびるためのメカニズムをハックして幸福を得たとして、その先にあるのは種の滅亡ではないか、と。
だが、小池氏によれば、そんな心配は無用、どころかとんでもない思い上がりであるらしい。悟りの果てに枯れ果ててしまうような人は、とても限られている。現在の地球上には、悟りの最終段階・阿羅漢まで達している人は1人もいないのではないか。それくらい、悟りとは難しいものである、と。
新田氏が仏教からお手軽なライフハックを取り出そうとしては、小池氏に否定される一連の流れもハラハラさせられて面白い。本書のハイライトはこの章といってもいいだろう。
全360ページ、ボリュームも内容も充実した対談集だ。