「論理」印のヒーロー活劇:『チーム・バチスタの栄光』

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

 下巻を読み終えてすぐ、続編『ナイチンゲールの沈黙』を注文した。最近では、最もエキサイティングな読書だった。

 ミステリ的な、あるいは医療小説的な考察は様々あるだろう。特に医療小説としてのディテールは、Amazonレビューを見た感じ、専門家からは色々とつっこみどころもある模様。

 しかし、本作の最大の魅力は、キャラクター。キャラクターを楽しめない人は、本作を楽しめない。


 主人公は、昼行灯だが保身には長けた神経内科医・田口。彼のやや軽薄な1人語りは、本作の屋台骨を形成している。が、それは本作の骨であって、肉ではない。

 「完璧な医者」のイメージを体現した外科医・桐生をはじめとするチーム・バチスタの面子も、本作に置いては前菜・付け合わせに過ぎない。

 では、本作のメインディッシュは何か。下巻から登場する「ロジカル・モンスター」白鳥だろう。頭の回転が速く、かつ、思考は論理的で的確。頭脳のスペックだけなら人後に劣らないが、反面、社会的な儀礼や他人への配慮には疎い。


 そんな彼の人となりは、身近に似たような人物がいるとイメージしやすくなる。僕の場合、バイト先の上司に白鳥のような人がいて、面白い反面苦労した。独り言っぽい語りや、遠慮の抜け落ちがちな発言などは白鳥と被る。

 僕のレベルでは彼の優秀さの度合いを推し量ることは出来なかったが、頭の良い人であることは確かだろう。僕にとって、田口の心労は他人事ではない。

 そんな、白鳥のような人物を内心うざったく感じている僕でも、本作は楽しむことができた。なぜかといえば、白鳥が「ヒーロー」だからだ。


 ヒーローの条件は、普通の人が、やりたいとは思っててもやれないことをやってしまうこと。普通の人は、ヒーローにはなれない。行動力も意志も武器も持たないからだ。

 白鳥は、「論理」という武器でもって「悪」をなぎ倒すヒーローなのだ。その姿、ヒーローならざる身としては、憧れずにはいられない。